【ゾンビ_黄道特急】

ヒルの襲撃により乗客の全てが命を落とした惨劇から数時間後

骸となったはずの乗客達が一人、また一人と起き上がり覚束ない足取りで歩き始めた

足音の主の方へ、肉を食らうために───

 

 

大きく穿たれた穴から客室に降り立つ男

その一室にそれは居た

にじり寄るそれの全身は悪臭を放ち、目は鉛を流し込んだかのように白く濁っている

体中にみられる痛々しい傷からはもはや血の一滴も流れていなかった

一言で例えるなら──死体だ

 

尋常ならざるものを感じ取った男は乗客であったであろうモノに二発の弾丸を撃ち込んだ

放たれた弾は首と胸に当たった、致命傷は避けられないだろう

人間であった時のことであればだが…

突然の銃撃をも意に介さず常軌を逸した力で男に掴みかかり噛みついた

血を啜り肉を喰いちぎる音と男の叫く声が客室に響いた

力の限り屍から逃れるべく身を躱し突き飛ばす

くちゃくちゃと口の中のものを咀嚼する屍は

再び男の元へ歩みを進めた

狭い客室の中に逃げ場はなく、頼みの綱だった拳銃も何度も掴みかかられもみ合いになる内に取り落としてしまったようだ

逃れることもできず生きながら身を齧られる苦痛に男の恐怖心は絶頂に達した

何度も噛みつかれ立つことすら苦し気な男のうなじに容赦なく喰らいつく

鮮血が花のようにぱっと散った

ついに力尽きた男は小さく呻きながら地に倒れそれに付き従うように屍は男の上に覆いかぶさった

屍を押し返さんと弱弱しく突き出された腕は宙を掻き

自身を貪り食う音を聞きながら男はこと切れた