【擬態マーカス_幹部養成所:放送室】
黄道特急を汚染し、アークレイ研究所を破滅へと導いた悪魔
その姿を借りた狂気の傀儡が獲物の気配を感じとり ゆらりとその姿を揺らした
生還のため、廃墟と化したアンブレラ幹部養成所へと足を踏み入れた男
目を疑うような狂気の爪痕を目の当たりにしながら恐怖を胸に収め歩みを進める。
とある一室にそれは居た
小柄な壮年男性を思わせる姿をしたそれは血の気を感じさせない青銅のような体を細かく震わせ、群発する腫瘍を思わせる醜悪な肉人形へと姿を変えた
その人へと擬態したヒルは先程までの緩慢な動きとはうってかわり、まるで四肢の一つ一つに意思があるかのような奇怪かつ、俊敏な動きで男に掴みかかった
絡み付くように体に回された腕は容易に離れない
男は腕で押しながら少しづつ体を離そうとするも、次の瞬間 じゅう…と何かが灼けるような音と体から立ち上る煙のようなものを認識した
灼かれるような痛みに男は声を上げ力の限りヒトに擬態したそれを振りほどいた
なおも体からは爛れた皮膚の残渣が立ち上り、男の肌を激しく苛んだ
退こうとする男に再び魔の手が絡み付く
腕は首と下腹部に回され、引きはがそうにも粘液で覆われたその腕は絖ってしまい表面を掻くだけに留まった
男を抱き寄せ覆い被さるかのようなヒル達の体から再び消化液が分泌され始めた
身体が灼ける音と肌の表面からじわじわと侵される痛みに男は一際大きな声を上げた
距離を取ろうと踵を返す男に容赦なく追撃を加える
ヒル達は肉腫のような腕を振り上げ大きくしならせた後、それを男に体に叩きつけた
距離を置いていた所為もあり虚をつかれる形となった男はそのあまりにも強力な攻撃に大きく体制を崩し、傷から溢れた血がシャツをじっとりと濡らした
逃げる力さえ失せ果て、追い詰められた男の最期は凄惨なものだった
組み付かれ、生きながら酸に侵され全身を灼かれる痛みに苛まれながら倒れ息絶えた
男の体から完全に抵抗の素振りが失せた後もヒル達は覆いかぶさり勝ち誇るようにその体を踊らせ続けた
【スティンガー】
スティンガーはB.O.W 開発初期に生まれた実験体で数回の改良を加えたものの
兵器としての実用性が見出せず廃棄となった、はずだった
その出来損ないが件の列車に乗り込みそして同じく列車に紛れ込んだ男の前に立ちふさがった。
アンバランスなまでに肥大化した鋏が男目掛けて振り下ろされる
列車の壁や天井を容易に引き裂くほどの強靭さを持つそれはあまりに強力で
精強な元海兵隊員である男を瞬く間に追い詰めた
毒は失せたとはいえその巨体から放たれる尾の一撃も脅威で
済んでのところで致命傷を躱した男の肉体を深く裂いた
苛立たし気に体を震わせ男目掛けて突進する
風に吹かれた塵のごとく男の体は宙へと舞い、重々しい音を立て地面へと叩きつけられた
攻撃は激しさを増し重なった裂傷が内臓まで至ったのかどす黒い血を吹き男の体から力が抜けていく様子が見て取れた
崩れかかる男の体を巨大な鋏が掴む
もはや呻くことしかできない
最期の力を振り絞り顔をあげた男の視線の先に迫る鋭い尾
それは男の胸を穿ち、肋をこじ開け肺と動脈を完全に破壊した
男は大量の血をぶちまけ血の気が失せた体は崩れるように血だまりにその身を落とした
【ゾンビ_黄道特急】
ヒルの襲撃により乗客の全てが命を落とした惨劇から数時間後
骸となったはずの乗客達が一人、また一人と起き上がり覚束ない足取りで歩き始めた
足音の主の方へ、肉を食らうために───
大きく穿たれた穴から客室に降り立つ男
その一室にそれは居た
にじり寄るそれの全身は悪臭を放ち、目は鉛を流し込んだかのように白く濁っている
体中にみられる痛々しい傷からはもはや血の一滴も流れていなかった
一言で例えるなら──死体だ
尋常ならざるものを感じ取った男は乗客であったであろうモノに二発の弾丸を撃ち込んだ
放たれた弾は首と胸に当たった、致命傷は避けられないだろう
人間であった時のことであればだが…
突然の銃撃をも意に介さず常軌を逸した力で男に掴みかかり噛みついた
血を啜り肉を喰いちぎる音と男の叫く声が客室に響いた
力の限り屍から逃れるべく身を躱し突き飛ばす
くちゃくちゃと口の中のものを咀嚼する屍は
再び男の元へ歩みを進めた
狭い客室の中に逃げ場はなく、頼みの綱だった拳銃も何度も掴みかかられもみ合いになる内に取り落としてしまったようだ
逃れることもできず生きながら身を齧られる苦痛に男の恐怖心は絶頂に達した
何度も噛みつかれ立つことすら苦し気な男のうなじに容赦なく喰らいつく
鮮血が花のようにぱっと散った
ついに力尽きた男は小さく呻きながら地に倒れそれに付き従うように屍は男の上に覆いかぶさった
屍を押し返さんと弱弱しく突き出された腕は宙を掻き
自身を貪り食う音を聞きながら男はこと切れた
【ヒル_黄道特急】
黄道特急を汚染させた元凶であり災禍の根源
際限なく増殖を続けるそれは新たな犠牲者に狙いをつけた。
音もなく近づき体をよじ登るヒル達
それぞれが首筋や脇腹、鼠径部といった食い破り出血させやすい箇所に殺到している。
そしてそれらは一斉に鋭い牙を立て男の血を舐め啜る
痛みのあまり苦悶の声をあげ身をよじるも『餌』の存在を認識したヒル達が簡単に離れるはずもない
本来は禁忌だが強引に引きはがすしかない
皮膚を裂くほどの鋭い牙を持ったヒルを引きはがすたび激しい痛みが走り
廊下に男の苦しむ声が木霊した。
逃れる術を模索する男に尚執拗に迫るヒル
追い詰められた男の体中にじっとりと血と汗、汚れた粘膜が絡み付き
痛ましく、悍ましい光景が広がる
抵抗もむなしく肉まで齧り取られ、血に塗れる男
血の匂いに色めき立ったヒル達がさらに男の体に群がる
足元から這いより、滑り込むように体を登ってくる
血を失い疲弊しきった男は抵抗の手が弱弱しくなりつつあった
従軍経験のある男にとってヒルの脅威は身に染みて理解しており
自身の生還がもはや困難になりつつある事は
恐怖と痛みとともに脳に焼き付いていることだろう
最期の瞬間が訪れた
男の屈強な体はただの血袋と化し重々しい音を立てその場に崩れ果てた
【ケルベロス_黄道特急】
列車内にて発生した事故により【T】感染者、およびその変異種、B.O.W までもが散見される事態に至った
軍用犬をベースとしたこの【ケルベロス】は集団で獲物を追い詰めることに長け、また敏捷かつ獰猛な生物兵器である
列車内を探索していた男が今まさにその牙に掛かろうとしていた
次々に牙や脚力を活かした攻撃を繰り出し、効率よく獲物を弱らせている
男も執拗な攻撃に身構える隙もなく夥しい量の血を失い、苦しげな声をあげる
もう長くないだろう
多くの血を流し満身創痍となった男に飛び掛かり
喉笛を噛み千切らんと狂ったように牙をむき、吠え猛る
刻一刻と死に向かうだけの男にとっては永遠に感じるような時間だっただろう
ついにその牙が首に掛かり…
喉笛、頸動脈がズタズタになった男は絶叫をあげながら噴水のように血を迸らせ
最期まで抵抗を試みていたその肢体はだらしなく血まみれの床へと崩れ落ちた
【クロウ】
調査のため立ち入った一室
突如耳を劈かんばかりのガラスの割れる音が響き
そして耳障りな羽音と甲高い咆哮が部屋を満たした
その黒い何かは油断なくナイフを構える男にまっすぐに向かい
そして容赦なくその嘴を顔や頭目掛けて叩きつけた
暗闇の溶け込むように飛び回るカラスに成す術もなく部屋の中は男の苦悶の叫びと湿り気を帯びた打突音が加わり地獄の様相と化した
抵抗する力すら失いつつある男に攻撃の手はさらに激しさを増した
生きながら肉を削り取られる痛みは想像を絶するものだろう
地獄のような時間はあっけなく幕を下ろした
男は力なく呻き血にまみれた体を地に投げこと切れた
再び部屋は耳障りな羽音と勝鬨のようなカラスたちの咆哮で満ちた